政府は2026年11月6日、人口減少への対応をまとめる「人口総合戦略」の策定に向け、有識者会議の初会合を開きました。政府は年末までに戦略を策定し、少子化対策や労働力の確保、社会保障、地域社会の維持などを一体的に進める方針です。
日本の総人口は2008年をピークに減少が続き、2025年の出生数は67万1000人、合計特殊出生率は1.14と、いずれも過去最低となりました。有識者会議では、結婚や出産を希望する人の負担を軽減する仕組みに加え、人口が減ることを前提とした行政サービスや社会保障制度の再設計も重要な論点になります。
人口総合戦略の有識者会議が11月6日に初会合
人口総合戦略に関する有識者会議は、学識経験者や企業経営者ら14人で構成されています。座長には、元総務相で野村総合研究所顧問の増田寛也氏が就きました。
構成員には、国立社会保障・人口問題研究所の岩澤美帆人口動向研究部長、慶応大学の樋口美雄名誉教授、中室牧子教授、東京大学の山口慎太郎教授、PKSHA Technologyの上野山勝也代表取締役らが参加しています。人口動態や労働経済、教育、子育て、人工知能など、複数分野の専門家を集めた形です。
会合では、少子化傾向を反転させるための環境整備や、人口減少が進んでも持続可能な地域社会をつくる方法などを議論しました。
城内実全世代型社会保障改革担当相は会合後、結婚や出産を希望する人にとって負担が大きくならない社会を目指すべきだとの意見が出たことを明らかにしました。政府は有識者の意見を関係副大臣等会議での検討に反映し、戦略の原案づくりを進めます。
政府が年末までに策定する人口総合戦略とは
人口総合戦略は、人口減少に関係する政策を省庁ごとに進めるのではなく、政府全体の共通方針としてまとめるものです。高市早苗首相を本部長とする人口戦略本部の下で検討が進められています。
政府が示した検討案では、戦略に次の四つを盛り込む方針です。
- 基本理念と基本目標
- 人口の将来シミュレーション
- 総合的な政策体系
- 戦略を実行して効果を検証する推進体制
政策の基本的な方向としては、「少子化傾向の反転」「人材希少社会における社会経済の活力維持」「全世代型社会保障の構築」「持続可能な地域社会の構築」の4本柱が示されています。
少子化対策だけでなく、働き方や人材育成、外国人との共生、地方の産業、医療・介護、デジタル技術の活用まで対象に含まれる点が特徴です。政府は従来の縦割りを排し、人口減少に関係する政策を分野横断的に進める大きなビジョンと位置づけています。
ただし、年末に策定される戦略は全体の方向性を示すもので、個別施策の詳細がすべて決まるわけではありません。具体的な制度や予算は、戦略策定後に各分野の会議や2027年度予算編成などを通じて詰めることになります。
出生率1.14を基準に将来人口を試算
戦略の重要な材料になるのが、出生率や外国人人口などの前提を変えた複数の将来シミュレーションです。
政府資料によると、日本の総人口は2008年の1億2808万人をピークに減少へ転じ、2025年には1億2297万人となりました。2020年と比べると2.5%減っています。
2025年の合計特殊出生率は1.14でした。国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した中位推計では、2070年の出生率を1.36、総人口を約8700万人と見込んでいますが、足元の出生率はその前提を下回っています。
政府は今後のシミュレーションで、1.14を基準に出生率が上昇する場合と低下する場合の両方を示す方向です。結婚や妊娠、出産に関する希望が実現した場合の目安となる「国民希望出生率」の1.4程度も、選択肢の一つとして検討します。
ただし、出生率が上昇しても、すぐに働き手が増えるわけではありません。2026年に生まれた子どもが労働市場へ本格的に参加するのは、おおむね2040年代以降です。そのため、今後十数年間の人手不足には、就業を希望する女性や高齢者が働き続けられる環境、業務の自動化、生産性向上、外国人材の受け入れなどを組み合わせて対応する必要があります。
少子化対策では結婚・出産の希望を妨げる負担が論点
人口減少の背景には、子育て世帯への給付だけでは解決しにくい複数の要因があります。
政府資料は出生数が減っている要因として、出産年齢にある女性の人口減少、結婚する人の減少、夫婦が持つ子どもの数の減少を挙げています。
50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合は、2025年に男性29.9%、女性19.6%となりました。「いずれ結婚するつもり」と回答した未婚者の割合も、2010年には男性86.3%、女性89.4%でしたが、2025年には男性75.1%、女性77.8%へ低下しています。夫婦が最終的に持つ子どもの平均数も、かつての2.2人前後から2025年には1.86人まで減りました。
こうした変化を踏まえると、保育サービスや児童手当だけでなく、若い世代の所得、雇用の安定、長時間労働、住宅費、教育費、家事・育児の分担などを一体的に見直す必要があります。
結婚や出産は個人の選択であり、政府が特定の生き方を押しつけることはできません。有識者会議には、希望する人が経済的、社会的な事情によって選択を諦めずに済む環境をどう整えるかという視点が求められます。
外国人受け入れと労働力人口も重要な焦点
人口総合戦略では、将来必要となる労働力人口の規模も検討します。単純に人口の数だけを見るのではなく、AIやロボットの普及による業務効率化、産業構造の転換、リスキリングによる人材移動などを踏まえて労働需要を試算する方針です。
外国人の受け入れをどのように位置づけるかも焦点になります。2025年の外国人人口は384万人で、働き手や地域社会の担い手として存在感が高まっています。
一方、受け入れ人数だけを増やしても、日本語教育や生活支援、労働条件、子どもの教育、医療へのアクセスが整っていなければ、地域での安定した共生にはつながりません。政府は人口総合戦略とは別に「外国人の受入れの基本的な在り方に関する基本方針」を検討しており、両者の整合性を確保する考えです。
出生率、外国人人口、AIによる生産性向上をそれぞれ別の問題として扱うのではなく、どのような社会と産業構造を目指すのかを先に示せるかが問われます。
地方の医療・交通・行政サービスをどう維持するか
人口減少の影響は全国一律ではありません。若者の流出が続く地方では、都市部より速いペースで住民が減り、医療、介護、公共交通、学校、上下水道、小売店などの維持が難しくなっています。
利用者が減る一方で、道路や水道などのインフラは一定の範囲を維持しなければならず、住民1人当たりの行政コストは上昇します。医師、看護師、介護職員、バス運転手、自治体職員などの不足も深刻化する可能性があります。
人口総合戦略では、全国各地への産業クラスター整備や地域サービスの維持、デジタル技術の活用などが政策体系の例として挙げられています。複数自治体による施設の共同運営、オンライン診療、行政手続きの共通化、自動運転を含む移動手段の確保など、人口規模に合わせた制度設計が必要です。
地域の人口を一律に増やす目標だけでは、自治体間で住民を奪い合う結果にもなりかねません。人口が減っても生活の質を保てる地域をどうつくるかが、戦略の実効性を左右します。
今後の焦点は数値目標と政策効果の検証
政府は有識者会議の議論に加え、地方団体や労使団体からも意見を聴き、2026年末をめどに人口総合戦略をまとめる予定です。戦略策定後は、2027年度からの施策実施を見据えて予算や制度の検討を進めます。
今後の焦点は、出生率や労働力人口、外国人人口について、政府がどのような前提と目標を示すかです。目標を掲げるだけでなく、施策ごとの進捗や効果を定期的に測定し、効果が乏しい場合に見直す仕組みも欠かせません。
日本では1990年代から少子化対策が続けられてきましたが、出生数と出生率の低下を止められていません。今回の人口総合戦略が従来政策の寄せ集めにとどまるのか、それとも若者の所得や働き方、地方の生活基盤まで変える具体策につながるのかが問われます。
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