小泉進次郎防衛相と赤沢亮正経済産業相は11月4日、防衛関連企業の関係者らと意見交換し、政府が初めて策定する「防衛産業基盤戦略」を巡って、生産能力、技術、供給網、人材の課題を話し合いました。政府は年末までの戦略策定を目指しています。会合は方向性を議論する段階で、個別企業への支援額や装備品の輸出案件が決まったわけではありません。

小泉進次郎防衛相は、ロシアによるウクライナ侵略が4年を超えて続く状況を踏まえ、持続的な対応能力の重要性を指摘し、生産力と技術力が対処力・抑止力に直結すると述べました。「強い経済なくして防衛力の変革は成り立たない」とし、官民の連携を訴えました。

赤沢亮正経済産業相は、平時に民生市場や海外市場の需要を確保し、有事には自衛隊の需要へ振り向けられるデュアルユースの生産基盤を整える考えを示しました。中堅・中小企業への支援や、民生技術を防衛分野に取り込む「スピンオン」も論点です。

防衛装備品は、平時の発注量が限られ、急に増産しようとしても専用の設備、材料、技能者を短期間でそろえにくい特徴があります。企業が将来の需要を見通せなければ、設備投資や採用をためらいます。政府の調達計画を長期で示すことが基盤維持につながります。

一方、国が需要を保証しすぎると、競争が弱まり、価格や技術の検証が不十分になるおそれがあります。随意契約が必要な分野でも、原価、利益、納期、品質を監査し、なぜその企業を選んだか説明する必要があります。安全保障を理由に全てを非公開にしてはいけません。

部品を作る中小企業は、防衛専業ではなく自動車、航空、工作機械など民生事業と両立している場合があります。厳しい情報管理、少量生産、長い保守期間が負担となり、撤退する企業もあります。参入支援だけでなく、取引条件と継続可能な利益の確保が課題です。

働く人にとっては、長期の雇用と高度技能の育成につながる可能性があります。ただし、納期の集中や秘密保持を理由に長時間労働を常態化させてはなりません。溶接、電子、ソフトウェア、品質保証など分野ごとの訓練と、安全な職場環境が必要です。

大学やスタートアップの技術を取り込む場合、研究の自由、成果公開、知的財産、輸出管理を整理します。研究費を受けたことだけで、すべての成果が軍事目的になるわけではありません。研究者が用途と契約条件を理解し、参加を選べる透明性が重要です。

デュアルユース技術には、通信、衛星、無人機、AI、材料、量子、サイバーなどがあります。同じ技術が災害対応、物流、医療にも役立つ一方、監視や攻撃へ転用される可能性があります。「民生にも使える」という説明だけで倫理的な論点を終わらせないことが必要です。

防衛装備品の海外移転を前提に開発・生産体制を変える方針には、国際協力と量産効果が期待されます。しかし、移転先での使用、第三国への再移転、人権状況、紛争への関与を確認する責任が生じます。輸出が企業収益になることと、日本の安全保障に資することは同じではありません。

装備移転の判断では、政府の運用指針と国会の監視、国際法、相手国との合意を確認します。戦略の策定だけで個別案件が自動承認されるわけではありません。対象品目、完成品か部品か、使用目的、停止条件を案件ごとに説明する必要があります。

家計への影響は、防衛費の財源と他の歳出との関係を通じて表れます。産業投資が国内雇用を生む場合でも、税負担や国債、社会保障、教育との優先順位を議論しなければなりません。「経済効果がある」だけで予算の妥当性を証明したことにはなりません。

地域では工場の増設が雇用と税収につながる一方、騒音、交通、危険物、防災、警備の負担が増える可能性があります。自治体と住民へ、公開できる範囲で工程と安全対策を説明します。機密保護と地域の知る権利の境界を丁寧に設計します。

供給網の強靱化では、特定国への原材料依存、単一企業だけが作る部品、古い設備が焦点になります。国内生産へ戻すだけでは、原料や工作機械を海外に依存したままの場合があります。調達先の多様化、備蓄、代替設計、修理能力を組み合わせます。

有事に民生工場を防衛生産へ切り替える構想は、設備の適合、従業員の同意、契約、補償を事前に決めなければ実行できません。平時の商品を止めれば医療や物流に別の不足が起きる可能性もあります。転用可能性を机上の数字だけで見積もらないことが重要です。

製造能力だけでなく、保守、弾薬、部品、ソフトウェア更新の継続性が必要です。新しい装備を購入しても、修理部品や技術者が不足すれば稼働率は上がりません。導入数の見栄えより、長期間運用する総費用と人員を確認します。

サイバー攻撃や産業スパイから技術を守る対策も欠かせません。大企業だけを守っても、図面や認証情報を持つ下請けから侵入される可能性があります。中小企業へ基準を課すだけでなく、専門家、設備、保険、訓練の費用を支援する必要があります。

企業が防衛事業へ参加するか撤退するかは、経営判断と従業員、株主への説明を伴います。政府が「名誉ある仕事」と呼ぶことは政策のメッセージですが、企業に参加を強制する根拠ではありません。倫理方針と利益の両面から判断できる環境が必要です。

抑止力は、装備を多く作れば自動的に高まるものではありません。相手に能力と意思を誤解なく伝え、同盟、外交、危機管理を組み合わせる必要があります。生産力を示すことが軍拡競争や緊張を高める可能性も含め、政策効果を検証します。

国会は、戦略の目標、予算、装備移転、企業支援の条件を審議し、秘密会や第三者監査も活用して行政を監視します。機密情報を公開できないことと、政策評価が不要であることは別です。期限、成果指標、見直し条件を置くことが重要です。

未確定なのは、戦略の最終文言、重点分野、企業支援の規模、海外移転の対象、予算措置です。年末の策定までに、企業、労働者、研究者、地域、国会からどのような意見を取り入れるかが焦点になります。

評価する際は、国内調達率や売上高だけでなく、納期、稼働率、修理期間、人材の定着、取引先への支払い、輸出後の管理を見ます。数字を増やすことが目的化すると、使えない在庫や維持できない設備を抱える可能性があります。

企業への支援方法には、補助金、政府融資、長期契約、設備の国有化、研究開発費などがあります。それぞれ企業が負うリスクと国の関与が違います。支援総額だけでなく、未達時の返還、利益が出た時の還元、撤退時の設備処分を決めます。

装備品の価格は、少量生産、厳しい試験、長期保守で民生品より高くなる場合があります。しかし特殊性を理由に費用増を無制限に認めることはできません。原価監査、国際比較、設計変更による削減を行い、品質を損なわない効率化を進めます。

下請け取引では、発注変更や短納期の負担を弱い企業へ押し付けないよう、価格転嫁と支払期間を確認します。防衛産業の利益率が上がっても、最終組立企業だけに利益が偏れば供給網は強くなりません。技能を持つ小規模企業の更新投資を支えます。

人材の安全保障審査を強める場合、国籍や出身だけで一律に排除せず、職務と情報に応じた公平な手続きが必要です。審査理由、異議申し立て、個人情報の管理を定めます。差別的な運用は人材確保と研究交流を損ないます。

自律型兵器やAIの導入では、人がどの段階で判断するか、誤認時の責任、国際人道法への適合を明確にします。開発速度だけを競い、安全試験や倫理審査を後回しにしてはいけません。戦略に技術ガバナンスを含める必要があります。

環境面では、工場のエネルギー使用、化学物質、騒音、廃棄物、装備品の廃棄を管理します。防衛目的であっても環境法令と労働安全は守られます。機密のため住民がリスクを確認できない場合、独立機関の監査が重要になります。

海外との共同開発は費用と技術を分担できますが、仕様変更、輸出承認、知的財産、部品供給を相手国に左右されます。共同であることが自律性を必ず高めるわけではありません。国内で維持すべき能力と共同化する分野を選びます。

有事の増産計画には、電力、輸送、港湾、通信、働く人の避難と家族支援も含める必要があります。工場設備だけ増やしても、地域インフラが止まれば生産できません。民間防災計画との整合を取り、平時の災害にも役立つ投資にします。

戦略を定期的に見直す際は、脅威評価が変わった場合に不要な設備や契約を縮小できる仕組みも必要です。一度始めた支援を既得権として続けると、より必要な技術へ資源を移せません。終了条件を最初から公開します。

戦略の全文と予算措置は別々に確認する必要があります。

写真は製造業を表すイメージで、防衛装備品、会合参加企業、自衛隊の工場を撮影したものではありません。写っている作業から今回の戦略の対象や用途を判断することはできません。

まとめ

政府は初の防衛産業基盤戦略を年末までに策定する方針で、小泉進次郎防衛相と赤沢亮正経産相が企業側と意見交換しました。生産力と民生技術の活用を掲げる一方、予算、輸出管理、働く人、地域への説明が必要です。個別支援や移転はまだ決まっていません。