厚生労働省が10月21日に公表した2026年の賃金引上げ等の実態調査では、1人平均賃金を引き上げた、または引き上げる企業の割合は92.0%でした。予定を含む1人平均賃金の改定額は1万3926円、改定率は4.4%です。常用労働者100人以上の会社組織の民営企業を対象とした結果であり、すべての働く人の給与が同じだけ増えたことを意味しません。
29日時点の公表資料から、家計や職場でこの数字をどう読むか整理します。賃上げという言葉には、企業が賃金を改定したか、平均でいくら変えたか、本人の手取りがどれだけ増えたかという異なる問いが含まれます。全国の動向を把握する統計と、自分の給与明細を読む作業をつなぐには、調査の対象と数字の定義を確認することが大切です。
92.0%は企業の割合、4.4%は改定率
92.0%という結果の単位は企業です。働く人の92.0%が昇給した、すべての企業で社員全員の賃金が上がったという意味ではありません。また、実施済みだけでなく予定も含む点を押さえる必要があります。すでに給与へ反映された結果と、今後の改定の予定を一つにした指標であるため、現時点の収入だけを表す数字ではありません。
1人平均賃金は、所定内賃金の1か月1人当たり平均額として説明されています。諸手当等を含みますが、時間外・休日・深夜の割増手当や、慶弔手当等の特別手当は含まれません。普段の給与明細の支給総額や、銀行に振り込まれる金額とそのまま一致するものではない点が、家計と比較するときの重要な違いです。
改定額1万3926円は、すべての人が毎月同じ額だけ増えたことを示していません。企業や産業、雇用上の条件、個々の賃金の決め方に違いがあります。平均額は動向を把握する材料ですが、本人の増額を保証するものではありません。自分の職場の通知や給与規定を確認する際の参考として使うことになります。
前年の改定額は1万3601円、改定率は4.4%でした。今回、額は増えていますが率は同じです。額と率では比較の基準が異なり、どちらか一方だけで賃上げの全体像が決まるわけではありません。また、賃上げを行った・行う企業の割合も前年の91.5%から変化しています。指標を混ぜず、それぞれの意味に沿って読むことが必要です。
調査の対象から分かる範囲
調査は全国の対象産業に属する、常用労働者100人以上の会社組織の民営企業から抽出して行われています。2026年は3668社を対象にし、有効回答は1862社、有効回答率は50.8%でした。対象と回答の条件を示す数字であり、全国の全企業を直接数えた調査ではありません。小規模な事業所などの状況へ、そのまま当てはめることはできません。
調査期間は7月20日から8月10日です。公表日は10月21日ですが、10月のすべての賃金の動きをその場で調べたものではありません。調査した時期、対象とする改定、予定を含む範囲を分けて理解する必要があります。10月に新たな事情が生じた企業の状況まで、この結果だけで反映されているとはいえません。
集計には産業や企業規模ごとの復元倍率が用いられています。回答企業数の単純な割算だけで、すべての掲載値を再現できるわけではありません。公表される構成割合を読む際には、集計方法と利用上の注意を確認することが必要です。数字が細かく示されていることと、あらゆる業種や個人に同じ精度で当てはまることも別です。
対象には労働組合のない企業も含まれます。労使交渉のニュースで目にする一部企業の結果とは、範囲が異なる調査です。一方で、調査の対象労働者の定義もあるため、非正規雇用を含むすべての人の処遇をこの一つの資料だけで説明することはできません。別の雇用形態や規模の状況は、それに合う統計と合わせて考える必要があります。
定期昇給とベースアップを分けて確認
賃上げには、勤続や職務等に応じた定期昇給と、賃金表などの水準を見直すベースアップといった異なる要素があります。今回の調査にもそれぞれの実施状況の項目があります。改定率をすべてベースアップ率と読み替えることはできません。職場で説明を受ける際にも、何の仕組みによって自分の賃金が変わるのかを確認することが役立ちます。
基本給が変わる場合と、手当が変わる場合では、明細上の見え方や将来の扱いが違う可能性があります。ただし、賞与や残業代の計算にどう反映するかは、それぞれの規定によります。この記事で一律の計算式を示すことはしません。会社からの通知、就業規則、賃金規定など、適用される資料を確かめる必要があります。
企業平均の賃金が上がっていても、人員構成や対象者の違いがあれば個人の実感は変わります。自分の昇給が全国平均より低いということだけで、計算の誤りや制度違反があるとは断定できません。疑問がある場合は、比較する額の範囲と対象期間をそろえて質問することが、具体的な説明につながります。
家計では手取りと物価、固定費を照合
額面の給与が増えても、税や社会保険料などの控除があるため、手取りが同じ額だけ増えるわけではありません。控除の変化には時期の違いもあります。1万3926円という統計の平均を、そのまま毎月使えるお金の増加分として家計に組み込まないことが重要です。実際に反映された明細を基準に、継続して入る収入を確認する必要があります。
物価の変化との比較も欠かせません。ただし、今回の4.4%から別の月の消費者物価上昇率を単純に引いて、全国民の実質的な収入増と断定することはできません。統計の対象や期間、賃金の範囲が異なるためです。家計では、食費、住居、光熱、教育など実際の支出の変化と合わせて考えると、生活の見通しに近づきます。
賃上げが予定の段階にある場合は、適用される月と支給日も確認したいところです。年度の途中で遡って精算されるか、継続的な増額か、一時金かによって使い方の判断は変わります。今回の統計は、すべての企業に同じ支給方法を求めるものではありません。勤務先の正式な説明と、自分の契約の条件が家計を考える基準になります。
転職を考える人にも、賃上げ率だけで職場の条件は決まりません。元の給与水準、勤務時間、通勤、休暇、仕事内容などを合わせて比べる必要があります。高い改定率が、そのまま高い手取りや働きやすさを意味するとは限りません。今回の調査は企業の賃金改定の動向を示すもので、個別の求人を推奨する資料ではありません。
企業には、持続できる原資と説明が課題
企業にとって賃金を上げる判断は、人材確保や従業員の生活と、収益や費用の見通しが結びつくものです。周囲が賃上げしているという事実だけでは、各社の負担や価格転嫁の余地は分かりません。調査には改定事情に関する項目もありますが、個々の企業の理由を全国平均から推測することはできません。経営の説明は各社の状況に即して行う必要があります。
従業員へ説明する際には、改定の対象、時期、基本給と手当の内訳が分かることが重要です。平均の増額だけを知らせても、本人がいつ何を確認すればよいかは分かりません。職場で納得できる説明を考えるうえでも、全国統計と個別の適用条件を分ける視点が役立ちます。数字の比較だけで対話を終わらせないことが必要になります。
続報で見る指標と限界
今後は、予定だった改定がどう実施されたか、別の賃金統計や雇用形態・企業規模別の結果と合わせて確認します。賃金の動向と実質的な購買力を考える場合も、対応する期間と定義をそろえる必要があります。今回の調査の公表だけで、今後の賃上げが必ず続くと予測することはできません。業況や雇用など新たな情報が必要です。
統計を比較するときは単位をそろえる
別の資料で年収の増減や賞与の動向を見た場合、この調査の月額の改定額とそのまま並べることはできません。年に何回支払われるか、対象の賃金は何か、誰を集計しているかをそろえる必要があります。増加率だけが似ていても、同じ現象を測っているとは限りません。定義を確かめる手間はかかりますが、生活の実感と数字の差を理解する助けになります。
職場の説明会で質問する場合も、平均の数字を示すだけでなく、自分の賃金のどの項目がいつ変わるのかを尋ねることが実務的です。会社全体の改定額と個人の適用額が異なる理由が分かれば、次の給与明細で確認する箇所も明確になります。統計を個人への約束とみなさず、具体的な説明を受けるための比較材料として使うことが重要です。
参照:厚生労働省「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/jittai/26/index.html)、報道発表資料(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/jittai/26/dl/08.pdf)、調査の概要(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/12-23a.html)。10月21日公表の資料を整理しました。写真は職場のイメージです。
まとめ
2026年の調査では、賃上げを実施した・予定する企業の割合は92.0%、平均改定率は4.4%でした。対象企業、賃金の範囲、予定を含む点を踏まえ、個人の手取りと同一視しないことが大切です。家計では実際の給与明細と支出、職場では改定の内訳と適用時期を確認する材料になります。
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