東京都は10月29日、65歳以上の在宅高齢者を対象にした「高齢者の生活実態」の報告書を公表しました。回答者のうち、ひとり暮らしは29.1%で、2020年度の調査より6.9ポイント上昇しています。暮らしの支えを考える資料ですが、施設入所者を含むすべての高齢者の割合や、孤立している人の割合を直接示す数字ではありません。
今回の公表は、2025年度東京都福祉保健基礎調査の結果をまとめたものです。調査の基準日は2025年10月15日で、回答期間は同年11月14日まででした。2026年10月の生活をその日に聞き取った調査ではなく、約1年前の状況を整理した報告書である点を押さえる必要があります。
調査対象は都内に住む在宅の65歳以上で、調査客体6000人のうち3449人から回答を得ました。回収率は57.5%です。郵送とインターネットによる回答を用い、本人の回答を原則としつつ、難しい場合は家族などの代理回答も認めています。数字を見る前に、この対象と方法を確かめたいところです。
ひとり暮らしの増加と、支援の必要性を分けて読む
世帯人員は2人が45.9%で最も多く、1人が29.1%、3人が14.9%でした。1人の割合は2020年度の22.2%から上がっています。差は6.9ポイントであり、6.9%増と同じ表現にはなりません。長期比較では1980年度の11.1%から18.0ポイント高く、世帯の姿が変化していることが分かります。
一方、同居する人がいないことと、助けを求める相手がいないことは別です。離れて住む家族、友人、近隣との関係がある人もいます。逆に、2人以上の世帯でも介護や家事の負担を一人で抱える場合があります。世帯人数だけで支援の優先度や本人の満足度まで判定することはできません。
家族にとっての読みどころは、同居を求める根拠にすることより、連絡や日常の手助けを具体的に話すきっかけになることです。買い物、通院、郵便物の確認など、困る場面は人によって異なります。住まい方を尊重したうえで、本人が望む連絡の頻度や手段を相談することが出発点になります。
地域の事業者にも意味があります。配達や修理の訪問時に不在だったとき、普段と違う状態に気付いたとき、どこまで確認し誰に連絡するかを考えられます。ただし、民間の担当者に見守りの責任が自動的に追加される発表ではありません。契約と本人の同意、地域の相談体制を踏まえた役割分担が必要です。
デジタルを使う人が約半数、使わない理由も一様ではない
日常生活でデジタルを週1回以上使った用途では、情報収集・調べもの・学習が51.6%、家族や知人とのやりとりが50.9%でした。この二つは用途別の割合です。同じ人が両方に含まれる可能性があり、足して利用者の総割合を出すことはできません。
また、この数字をスマートフォンの保有率や、行政の電子申請を一人で完了できる人の割合と読み替えることもできません。普段のメッセージは使えても、本人確認や書類の添付で助けが必要な場合があります。サービスを設計する側は、接続できることと手続きを終えられることを区別して考える必要があります。
家庭で手助けをする際にも、画面の操作をすべて代行すれば解決するとは限りません。契約内容や支払先を本人が理解できる説明が大切です。暗証番号などをむやみに共有せず、何に同意する操作なのかを一緒に確認する方法が考えられます。今回の調査自体が、特定のアプリを勧めているわけではありません。
窓口をオンラインにまとめる事業者には、電話や対面で相談できる入口をどう残すかという課題があります。利用が多い層にも、端末の故障、通信環境、視力や体調の変化は起こり得ます。平均的な利用率を根拠に、困ったときの別経路を不要と決めるのは早計です。
地域活動の割合は、参加していない人の事情まで示さない
過去1年間に趣味、スポーツ、地域活動などを行ったと答えた人は44.9%でした。活動した人の内容では、趣味・学習・スポーツが85.1%、自治会や町内会、老人クラブ、NPO団体などの役員・事務局活動が28.6%となっています。後者の数字は、活動した人を土台にした項目として読む必要があります。
活動に参加していないことを、交流への意欲がないと解釈することはできません。会場までの移動、参加費、開催時間、体力、家族の世話など、参加の条件が合わない可能性もあります。今回の公表で確認した項目だけから、その理由の順位や地域ごとの不足するサービスを確定することはできません。
地域団体が考えられるのは、募集を増やすことに加え、初回の参加方法を分かりやすくすることです。見学だけでもよいのか、途中で帰れるのか、一人で来てもよいのかが分かると、参加を検討しやすくなります。これは調査結果から考えられる運営上の視点で、都が新たな義務を課したという意味ではありません。
家計の観点では、会費だけでなく交通費や食事代も継続参加の条件になります。無料の催しでも、遠い会場に何度も通えば負担が生じます。本人が続けられる範囲を確かめ、参加回数の多さだけで生活の充実度を比べないことが大切です。個々の世帯の支出額はこの資料だけでは分かりません。
長く働ける社会への希望と、実際の就業は別の指標
何歳ごろまで働ける社会が理想かという質問では、70歳ごろまでが24.5%、75歳ごろまでが21.7%でした。70歳ごろまで、75歳ごろまで、80歳ごろまで、80歳以上で働けるまでを合わせると75.6%となっています。これは理想の社会についての回答であり、回答者が現在働いている割合ではありません。
働きたい年齢、働ける体調、求人の条件はそれぞれ違います。長く働けることを望む回答が多いからといって、全員に長時間勤務を求めてよいことにはなりません。職務の内容や通勤、休憩、勤務日数など、本人が選べる条件をどう整えるかという議論につなげる読み方が適切です。
家族の側も、就業を収入だけで評価すると本人の意向を捉えにくくなります。仕事には人との交流や役割を持つ面がありますが、負担が大きい場合もあります。年金、賃金、生活費の関係は個別の条件で変わるため、今回の割合から望ましい働き方や必要な月収を一律に計算することはできません。
比較するときに確認したい、調査の範囲と時間差
回収率57.5%という情報は、回答が得られなかった人もいることを示します。回答者と非回答者の状態が同じとは限らず、施設で暮らす人も対象の外です。結果を都内の高齢者の生活を考える手掛かりとして使いながら、一人ひとりの事情を置き換えない姿勢が必要です。
前回より割合が上がった理由についても、世帯構成や年齢の分布、人口の変化などを確認する余地があります。公表された差だけで、特定の施策が成功した、家族関係が悪化したなどと原因を一つに絞ることはできません。因果関係を検討するには、より詳しい集計や別の情報が必要です。
報告書は福祉局のホームページで全文を確認できます。関心のある項目は概要だけで判断せず、設問の表現、回答の選択肢、集計対象を見たいところです。例えば地域活動の内容と全体の活動率を混同しないだけでも、数字から受ける印象は変わります。
今後は、都や区市町村がこの調査をどの事業の見直しに用いるかが続報の焦点になります。相談体制、移動支援、デジタル利用支援などの具体策が公表された場合に、対象者、開始時期、利用方法を確認します。今回の報告書の公表だけで、新たな給付やサービスが始まったとはいえません。
読者が今できるのは、身近な人の住まい方を数字の典型に当てはめず、連絡、移動、買い物、相談で困る点を聞くことです。統計は会話を始める助けになりますが、本人の希望を聞く手順を省く理由にはなりません。支援の必要性がある場合は、居住地の相談窓口とつながる方法を個別に確かめます。
制度を調べる際は、本人の住所地が基準になります
都全体の調査で傾向が示されても、利用するサービスの相談先は区市町村などで異なります。離れて暮らす家族が情報を探す場合は、自分の居住地の制度をそのまま当てはめず、本人が住む地域の案内を確認することが必要です。都の統計と地域の利用案内は、役割の異なる情報になります。
見守りの方法を選ぶ際には、費用だけでなく、何を確認してもらえるか、連絡が取れないときにどう動くかも重要です。定期的な訪問、電話、機器を使うサービスでは、分かることと分からないことが違います。本人が安心して使える条件を説明してもらい、契約内容と照らし合わせて選ぶ必要があります。
調査対象が在宅の高齢者であることは、施設で暮らす家族がいる読者にとっても大切な線引きです。施設の生活状況や支援の質を今回の割合から評価することはできません。関心のある暮らしの形に合う資料を探すことが、統計を実生活に生かすための一歩になります。
出典:東京都福祉局「高齢者の生活実態」の結果(10月29日公表)。https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2026/10/2026102916
写真は家族や世代間のつながりを表すイメージで、調査対象者を撮影したものではありません。
まとめ
東京都の在宅高齢者調査では、回答者のひとり暮らしが29.1%となり、5年前より増えました。デジタル利用や活動、就業への希望も含め、数字の対象と設問を確かめながら、本人の希望に合う支え方を考える資料として活用することが大切です。
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