財務省は11月2日、国債の取引や決済にブロックチェーンなどを使う「オンチェーン対応」に関する第1回研究会の議事要旨を公表しました。会合は10月8日に開かれ、構成員は効率化や新しい投資需要の可能性だけでなく、既存市場との分断、法的な権利保全、金融システムへの影響、24時間365日取引の負担などを幅広く議論しました。国債を直ちにトークン化すると決めた会合ではありません。

オンチェーンとは、資産の記録や移転を分散型台帳などのネットワーク上で処理する考え方です。民間では、不動産などを裏付けにしたセキュリティートークンの発行が増えています。国債についても、取引と決済を同じ基盤で連動させ、事務や担保管理を効率化できないかという関心があります。ただし、技術を使うこと自体が目的ではなく、発行体である国が安定的に資金を調達し続けられるかが基本になります。

研究会では、オンチェーンで取引される国債と、現在の仕組みで取引される国債が併存した場合、同じ年限・条件の商品を同一のものとして扱えるのかが論点になりました。売買する場所が分かれれば、価格や流動性に差が生じる可能性があります。新しい市場だけ便利になっても、既存市場との間で資金や担保を動かしにくければ、国債市場全体の効率が下がるおそれがあります。

現在の国債振替決済制度では、資金と国債の双方を日本銀行が管理することが重要な特徴です。オンチェーンの決済資金としては、ステーブルコインや預金トークンなどの選択肢が考えられますが、中央銀行マネーとの関係をどう設計するかは未確定です。決済が速く見えても、相手方の資金が確実か、取引を最終確定できるかという信用の問題は残ります。

構成員からは、目的を先に明確にし、本当にブロックチェーンが必要なのか、従来技術の方が優れる分野はないかを検討すべきだとの意見が出ました。参加者を限定するパーミッション型と、広く参加できるパーミッションレス型では、管理、透明性、障害時の対応が異なります。「ブロックチェーン」という一語だけでは、実際の技術仕様や責任分担を判断できません。

家計にとって、今回の議事要旨が個人向け国債の利率や償還条件を変更するわけではありません。現在保有している国債が、自動的に暗号資産へ置き換わることも決まっていません。オンチェーン対応が将来実現しても、誰が購入できるか、最低金額、保管方法、税務、元利払いの方法は制度設計によります。新しい名称だけを見て、高利回りの商品と誤解しないことが必要です。

暗号資産で利益を得た投資家が、一時的な運用先としてオンチェーン国債を使う可能性も議論されました。新たな需要を取り込める一方、暗号資産市場の急な変動が国債市場へ波及する経路になるかもしれません。国債は金融取引の担保や金利の基準として使われるため、一部の投資家だけの問題では終わらない可能性があります。波及の大きさは現時点で未確認です。

法的な論点も重要です。パーミッションレス型のネットワークを使う場合、マネーロンダリングやテロ資金供与への対策だけでなく、差し押さえなどの民事執行を実効的に行えるかが問われます。秘密鍵を持つ人だけが資産を動かせる仕組みでは、相続、破産、誤送信、不正取得の際に誰がどの権限で記録を修正できるかを決めなければなりません。

24時間365日取引が実現した場合の市場運営も論点です。いつでも売買できることは利用者に便利ですが、価格を提示する証券会社などには夜間・休日を含む人員と資金が必要になります。急変時に売買の偏りを吸収するため、在庫を増やせば価格変動リスクも大きくなります。営業時間を長くするだけで、市場の安定性が自動的に高まるわけではありません。

システム障害時の復旧方法も、今後の設計で避けられない課題です。ネットワークが止まった場合、最後に確定した取引はどれか、二重処理をどう防ぐか、参加者へ誰が連絡するかを定める必要があります。分散型という言葉は、責任者がいないことを意味してよいわけではありません。国債のような基幹市場では、障害の検知と復旧、監査の手順が明確であることが求められます。

サイバーセキュリティーでは、台帳そのものだけでなく、ウォレット、本人確認、接続する事業者、利用者端末が攻撃対象になります。ブロックチェーン上の記録が改ざんされにくくても、秘密鍵が盗まれたり、接続先を偽装されたりすれば損失は起こり得ます。技術の強みと、周辺システムの弱点を分けて評価する必要があります。

国債市場はすでに流動性が高いため、オンチェーン対応で売買しやすさが大きく改善するとは限らないという意見も出ました。むしろ担保管理や事務フローの効率化に利点があるのではないかという見方です。社債など流動性が低い商品と国債では、同じ技術を使っても効果が異なります。国債だけを変えた結果、他の市場との格差が広がる可能性も検討対象です。

企業や金融機関にとっては、既存システムとの接続費用が大きな問題になります。新基盤に参加するための開発、本人確認、監査、担当者教育が必要なら、小規模な事業者ほど負担が重くなります。処理単価が下がっても、移行費用を回収できるまで時間がかかる場合があります。短期の費用と長期の効率化を分けた試算が必要です。

国際的な互換性も重要です。日本独自の仕様が海外の保管機関や投資家のシステムと接続できなければ、利用者が限られます。反対に国際標準へ合わせるだけでは、日本の法律や決済慣行に適合しない可能性があります。財務省は、国際的な市場環境の変化に日本国債が取り残されないよう技術面で追い付く必要があると説明しています。

利用者は、国の研究会が開かれたことを理由に「政府公認トークン」などを名乗る勧誘を信用しないでください。発行時期、販売事業者、購入方法は決まっていません。国債を装った投資話が届いた場合は、財務省や金融庁、登録事業者の公式情報と照合する必要があります。研究段階の用語を使った詐欺には注意が必要です。

未確定なのは、オンチェーン対応の目的、対象にする取引、使う台帳、決済資金、参加者、法改正の要否、導入時期です。第1回の議事要旨は論点を並べた段階であり、実証実験や制度導入の決定ではありません。メリットだけでなく、移行中と移行後の課題を分けて整理する方針です。

続報では、次回以降の研究会資料、民間事業者へのヒアリング、実証の有無、法制・税制・会計上の整理を確認します。個人向けに影響が出るのは、購入や保有の条件が具体的に示された後です。それまでは、既存国債の条件と将来構想を混同しないことが重要です。

会計処理では、オンチェーン上の国債を従来の国債と同じ資産として扱うか、保管事業者を介する場合の権利をどう表示するかが課題になります。帳簿上の残高と台帳上の残高を照合し、差異が出た場合の優先順位を決める必要があります。決算や監査で検証できる証跡が不可欠です。

税務では、利子、売却益、担保利用、他のトークンとの交換をどう記録するかが利用者の実務へ影響します。制度が決まっていない段階で、暗号資産と同じ課税、従来国債と同じ課税のどちらかに断定することはできません。導入するなら、税務当局の明確な案内が必要です。

秘密鍵を利用者自身が管理する方式では、紛失時の救済が問題になります。保管事業者が管理する方式では、事業者の破綻や不正アクセスに備える必要があります。利便性と自己管理の責任は方式によって変わるため、個人向けに提供する場合は、誰が何を保証するかを分かりやすく示すべきです。

災害や大規模停電の際、ネットワークへ接続できない状態でも権利が失われない設計が必要です。複数拠点で記録を保持するだけでなく、復旧後の取引順序、非常時の停止権限、誤った処理の訂正方法を決めます。常時稼働を目指すほど、計画停止と緊急停止の統治が重要になります。

市場監視では、複数のアドレスを使った相場操縦や、取引順序を利用した不公正取引をどう検知するかが課題です。台帳が公開されていても、実際の支配者が分からなければ監視は十分ではありません。本人確認と取引分析、捜査協力を組み合わせる必要があります。

小口化が進めば個人が参加しやすくなる可能性がありますが、短時間の価格変動へ頻繁に売買する人が増えることも考えられます。国債には金利変動による価格リスクがあり、満期前に売れば元本割れする場合があります。技術が新しくても、債券の基本的なリスクは消えません。

制度移行では、既存の金融機関や保管機関の役割が変わる可能性があります。中間業務が減る一方、本人確認、鍵管理、システム運営など新しい仕事が増えます。効率化の利益と移行負担がどの主体へ配分されるかを明らかにしなければ、参加者の合意を得にくくなります。

写真はブロックチェーン技術のイメージです。財務省の研究会や実際の国債取引画面ではありません。

まとめ

財務省の研究会は、国債のオンチェーン対応について、効率化だけでなく市場分断、法的な権利保全、24時間取引、金融システムへの波及を検討しました。導入や個人向け商品の変更は決まっていません。技術の新しさより、安定的な国債発行と既存市場との接続を保てるかが今後の焦点です。