小泉進次郎防衛相は11月3日、東京都内での講演で、安全保障関連3文書の改定を巡り、将来の潜水艦動力について「原子力も選択肢に入れて議論をしなければいけない」と述べました。原子力潜水艦の導入や建造費、配備先が決まったわけではなく、必要性と法制度、費用、人材、安全性を検討する段階です。

小泉進次郎防衛相はこれまでも、抑止力と対処力を高める方策について、原子力を含むあらゆる選択肢を排除しないとの考えを示してきました。今回の発言はその姿勢を改めて述べたものです。政府が調査研究へ着手する方針を安全保障関連3文書へ盛り込む案が報じられていますが、文書の最終内容は正式決定を待つ必要があります。

原子力潜水艦は、原子炉で動力を得る潜水艦です。通常動力型に比べ、長期間潜航しやすく、高い速力を持続できることが一般的な利点とされます。一方、原子力潜水艦という名称だけで核兵器を搭載するとは限りません。動力が原子力であることと、弾道ミサイルなどの核兵器を保有・搭載することは別の論点です。

日本の海上自衛隊は現在、通常動力型潜水艦を運用し、蓄電池やディーゼル機関などの技術を発展させてきました。原子力動力へ移る場合、既存艦の単純な延長ではありません。原子炉の設計、核燃料、放射線管理、基地施設、廃棄物、事故対応、廃炉まで、長期にわたる新しい制度と産業基盤が必要になります。

導入を支持する側は、周辺国の潜水艦能力が強化される中で、より長く遠く活動できる艦が必要だと主張します。日本周辺の広い海域を監視し、補給や浮上の制約を減らせる点を重視します。ただし、作戦上の必要性は航続距離だけで決まらず、任務、隻数、整備、乗員、無人機や航空機との役割分担を含めて評価する必要があります。

慎重論は、巨額の建造・維持費、専門人材の不足、事故時の影響、港の受け入れ、核不拡散との整合などを挙げます。何隻必要か、常時運用するために何隻を整備へ回すかで総費用は大きく変わります。海外の艦艇価格を円換算しただけでは、日本で新たに必要となる研究施設や訓練、規制の費用を含められません。

法制度では、原子力基本法が原子力の研究、開発、利用を平和目的に限ると定めていることとの関係が論点です。軍艦の推進用原子炉をどう位置付けるかについて、政府の法解釈、国会審議、必要なら法改正の検討が求められます。「核兵器を積まないから問題がない」「軍用だから直ちに違法」といった一文だけで結論を出せる問題ではありません。

核不拡散条約と国際原子力機関の保障措置も重要です。原子力潜水艦の燃料には、民生用原子力施設とは異なる管理上の課題があります。燃料の濃縮度、供給元、査察との関係、機密性をどう両立させるかを詰める必要があります。日本だけで決められず、国際機関や協力国との調整が必要になる可能性があります。

安全規制の主体も明確にしなければなりません。民間の原子力発電所は原子力規制委員会の規制を受けますが、防衛装備の原子炉を誰がどの基準で審査するか、事故を誰が調査するかは制度設計が必要です。防衛上の秘密を守りながら、国民が安全性を検証できる情報をどう公開するかも難しい課題です。

基地の候補地が話題になれば、地域住民の暮らしと自治体財政に関わります。放射線監視、消防・医療体制、避難計画、港湾工事、漁業への影響、事故時の補償などを具体的に説明する必要があります。国が安全保障上必要だと判断しても、地元への説明を配備決定後の形式的な手続きにしては信頼を得られません。

乗員の育成には長い時間がかかります。原子炉を運転する技術者、保守員、放射線管理、造船、規制、緊急対応など幅広い専門家が必要です。民間原子力分野でも人材確保が課題になる中、防衛部門との取り合いが起きる可能性があります。人数だけでなく、資格制度、訓練施設、勤務環境、退職後の技能継承も考える必要があります。

造船業への影響も大きいテーマです。通常動力型潜水艦を建造してきた企業と供給網を維持しながら、原子炉関連の新しい技術を導入するには、長期間の投資が必要です。原子力潜水艦へ重点を移すことで、既存艦の建造や整備が遅れないか、予算と人員をどう配分するかを示す必要があります。

家計への影響は、導入決定がない現段階で一人当たりの負担額を示すことはできません。防衛費の中で調査研究、建造、基地、人件費をどう扱うか、他の装備や社会保障などとの優先順位が国会で問われます。安全保障上の効果と費用を比較する際、単年度の建造費だけでなく、数十年に及ぶ運用・廃炉費用まで含めるべきです。

原子力潜水艦の速度や潜航期間が優れていても、日本の防衛目的に最適かは別の検証です。周辺海域の地形、海峡、騒音、任務の範囲、同盟国との分担によって必要な艦は変わります。より多くの通常動力艦、無人潜水機、哨戒機、海底センサーを組み合わせる選択肢とも比較しなければなりません。

米国や英国、フランスなどの運用経験から学べる点はありますが、各国は核兵器政策、地理、予算、産業基盤が異なります。オーストラリアのAUKUSによる原子力潜水艦計画も、費用、人材、納期を巡る課題が指摘されています。海外が保有していることだけを、日本での実現可能性の根拠にすることはできません。

非核三原則との関係では、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という原則と、推進用の原子炉を分けて議論する必要があります。同時に、国民が「原子力潜水艦」という言葉から核兵器搭載を連想するのは自然です。政府は用語の違いを説明するだけでなく、将来の兵器搭載方針を曖昧にしないことが求められます。

事故対応では、港内の火災や衝突、原子炉の異常、自然災害、攻撃を受けた場合など複数の想定が必要です。通常の原発事故と同じではありませんが、放射性物質を扱う以上、測定、医療、住民への連絡、国際通報の手順を整える必要があります。秘密を理由に訓練内容が全く見えなければ、地域の準備は進みません。

議論の進め方にも注目が必要です。安全保障関連3文書へ「調査研究」を盛り込むことと、導入を閣議決定すること、予算を計上すること、建造契約を結ぶことは別々の段階です。見出しで「原潜保有へ」と先取りせず、各段階で何が決まり、何が未決定かを確認する必要があります。

国会では、任務、費用、法的根拠、国際約束、代替案、地元同意について政府へ資料を求めることになります。機密性が高い分野でも、総額、意思決定の手順、安全規制の基本まで非公開にする理由にはなりません。秘密指定の妥当性を監督し、将来の政権でも検証できる記録を残すことが重要です。

燃料供給を外国に依存する場合、装備の運用が相手国の政策や輸出管理に左右される可能性があります。国内で燃料を製造する場合も、新しい施設、技術、規制、核物質防護が必要です。供給をどこから受け、使用済み燃料をどこで管理するかを決めないまま、艦の性能だけを議論することはできません。

廃炉と解体は数十年後の問題ですが、導入時に費用と責任主体を決める必要があります。原子炉区画を含む艦体をどこで保管・解体し、放射性廃棄物をどう処分するかは、運用終了後も続く課題です。将来世代へ費用を先送りしないため、建造費とは別に積立や長期計画を示す方法も検討対象になります。

港へ寄港する同盟国の原子力潜水艦と、日本が保有・運用する場合では責任が異なります。事故時の指揮、損害賠償、情報公開、自治体との協定を日本政府が主体的に整えなければなりません。既存の寄港対応をそのまま自国艦の恒常配備へ適用できるかは、法的・実務的な検証が必要です。

防衛政策の選択は、脅威の説明にも左右されます。政府は周辺国の艦艇数だけでなく、日本が担う具体的な任務、現行能力の不足、原子力動力でなければ埋められない差を示す必要があります。情報を公開できない部分があっても、複数の選択肢を比較した評価軸まで秘密にすれば、国民は費用対効果を判断できません。

検討には期限を設け、技術的に実現できない場合や費用が効果に見合わない場合に計画を止める基準も必要です。調査を始めたこと自体を導入理由にせず、途中で得た不利な結果も公表できる仕組みが、政策判断の信頼を支えます。

続報では、改定される安全保障関連3文書の正式な文言、調査研究費の有無、担当組織、検討期限、法制面の政府見解を確認します。具体的な艦型、隻数、配備地が報じられた場合も、政府決定か有識者提案かを区別します。原子力規制委員会や国際原子力機関との協議が始まるかも焦点です。

写真は海のイメージで、海上自衛隊の潜水艦や原子力施設を撮影したものではありません。今回使用できるUnsplash候補の中から潜水艦の活動領域に合う海面の写真を選んでおり、写っている海域と政策議論に直接の関係はありません。装備の形状や運用を画像から判断しないでください。

まとめ

小泉進次郎防衛相は、将来の潜水艦動力として原子力も選択肢に入れて議論する必要があるとの考えを示しました。導入は決まっておらず、任務上の効果だけでなく、法制度、核不拡散、安全規制、費用、人材、地元説明を検証する必要があります。今後は安全保障関連3文書の正式文言と予算を確認し、「議論」と「決定」を分けて読むことが大切です。