KDDIとタクシー事業を手がけるnewmo(ニューモ)は2026年11月6日、自動運転タクシーの社会実装に向けた資本業務提携を締結したと発表しました。KDDIスマートモビリティを含む3社で協力し、2028年に大阪府堺市で自動運転タクシーの商用化を目指します。

KDDIが通信、AI計算基盤、遠隔監視、高精度位置測位などを提供し、newmoの自動運転技術やタクシー運営のノウハウと組み合わせます。ただし、商用運行の開始当初はセーフティードライバーが同乗する計画です。直ちに完全無人のタクシーが街中を走るという発表ではありません。

堺市の自動運転タクシーは2028年に商用化を目指す

今回の提携では、newmoとKDDIが資本面でも関係を強化し、KDDIスマートモビリティを加えた3社がモビリティ関連事業を共同で展開します。出資額や持ち分比率は発表されていません。

実証と商用化の中心になるのは大阪府堺市です。堺市では2026年4月22日から、堺区と西区の臨海部を中心に自動運転タクシーの実証実験が進められています。使用車両は「LEXUS RX」で、2026年度は走行動画などのデータを集め、自動運転AIの学習と走行性能の向上に取り組む段階です。

発表された計画では、2027年度に自動運転レベル4の認可取得を目指し、2028年度には堺浜周辺の限定エリアで商用運行を始めます。2026年度は社員や関係者を対象に検証し、2027年度には無償のモニター利用、2028年度以降は有償のモニター利用へ進むロードマップが示されています。

自動運転レベル4は、国が認めた走行区域や天候、時間帯などの条件内で、システムが運転操作を担う仕組みです。どこでも自由に無人走行できるレベル5とは異なります。堺市の計画でも、当初は安全確保や運用検証のためドライバーが乗車する想定です。

KDDIが担う通信、AI、遠隔監視

自動運転タクシーを継続的な交通サービスにするには、車両単体の運転性能だけでは足りません。運行中の車両と監視拠点を安定して接続し、異常や事故、道路状況の変化に対応できる仕組みが必要です。

[KDDIの発表](https://newsroom.kddi.com/news/detail/kddi_nr_s-83_4819.html)によると、同社が提供する主な技術は次の4分野です。

- 自動運転車両と遠隔監視拠点を結ぶ通信回線
- 自動運転AIの学習と推論に使うAI計算基盤
- 車両の状況を確認する遠隔監視システム
- 車両の位置を高精度で把握する位置測位技術

自動運転AIは、実際の道路で収集したデータを使って学習を重ねます。堺市内には交差点や住宅地、臨海部の幹線道路など、異なる交通環境があります。周囲の車や歩行者、自転車の動きを判断し、安全に走行するには大量のデータと計算資源が欠かせません。

newmoはKDDIのAI計算基盤をすでに自動運転AIモデルの学習に利用しています。KDDIは大阪堺データセンターのGPU基盤を提供し、車両から集めたデータを自動運転技術の改善につなげます。

一方、遠隔監視は車両の位置や走行状況を離れた拠点で確認するための仕組みです。通信が不安定になった場合や、車両だけでは判断が難しい事態が発生した場合に備え、運行管理側が状況を把握できる体制を構築します。

newmoは実際のタクシー運営とAI開発を担当

newmoは、自動運転技術だけを開発する企業ではありません。全国で約1900台規模のタクシーを運行し、配車アプリやタクシー運行システムも開発しています。

今回の提携では、タクシー事業と自動運転タクシー事業の運営に加え、走行データの収集、自動運転AIの開発、配車システムの提供を担当します。技術開発と旅客運送事業を同じ枠組みで進められることが特徴です。

自動運転車が安全に走れるようになっても、配車、乗降場所の設定、車両整備、清掃、利用者への案内、事故や故障時の対応といった業務は残ります。実際のタクシー営業で得た知見をシステム設計へ反映できるかが、商用化を左右するポイントになります。

なぜ自動運転タクシーの実証場所が堺市なのか

堺市は、デジタル庁の「自動運転社会実装先行的事業化地域」に選ばれています。これは短期間の実証走行だけで終わらせず、地域で日常的に利用される交通サービスへ移行することを重視した事業です。

堺市とnewmoは、タクシー運転手の不足に対応し、市民の移動手段を維持する目的で自動運転タクシーの導入を進めています。newmoのほか、未来都、堺相互タクシー、KDDI、KDDIスマートモビリティ、関西電力などが「堺市自動運転タクシー実装コンソーシアム」に参加しています。

[デジタル庁の資料](https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/3fafc56c-fe8e-4c24-a3fa-5003126259ae/2f76c3f8/20260312_meeting_mobility-working-group14_outline_02.pdf)では、大阪地域の法人タクシー運転者の平均年齢は58.1歳とされています。65歳以上が全体の3分の1を超える一方、20代と30代は約1割にとどまります。車両があっても乗務員を確保できず、実際に稼働するタクシーの割合が低下していることも課題です。

人口減少が進む地域では、需要が少ない路線や時間帯ほど運転手の確保が難しくなります。自動運転タクシーには、人手不足を補い、鉄道駅やバス停から自宅、病院、商業施設までの移動を支える役割が期待されています。

E2E型の自動運転システムを検証

堺市の計画では、E2E(エンド・ツー・エンド)型の自動運転システムを採用します。E2E型は、車両が取得した周辺情報からハンドルやブレーキなどの操作判断までを、AIが一体的に処理する考え方です。

タクシーは決められた一本のルートだけでなく、利用者の依頼に応じてさまざまな道路を走ります。固定ルートを往復する自動運転バスよりも、対応しなければならない道路や交通状況が多くなります。堺市では、まずみなと堺グリーン広場や堺浜周辺でデータを集め、単一ルートから複数ルートへ段階的に走行範囲を広げる計画です。

ただし、AIの性能だけで安全性が決まるわけではありません。通信障害への備え、車両の整備、遠隔監視員の配置、緊急時の対応手順、警察や道路管理者との調整も必要です。地域住民や利用者に運行条件を分かりやすく伝え、理解を得る取り組みも欠かせません。

堺市で開発した運行機能を全国へ展開

3社は堺市で自動運転タクシーを商用化するだけでなく、そこで構築した仕組みを全国の交通事業者へ提供する構想を示しています。

提供を検討しているのは、自動運転車両そのものに限りません。配車、運行管理、遠隔監視など、タクシーサービスを運営するための機能をまとめて展開します。KDDIスマートモビリティが運営するAIオンデマンド交通や、自動運転バス・シャトルとの連携も計画されています。

地域によって必要な交通手段は異なります。利用者の多い時間帯にはバスを走らせ、少人数の移動にはオンデマンド車両やタクシーを配車するといった組み合わせが考えられます。複数の移動サービスを共通の運行基盤で管理できれば、車両や遠隔監視員を効率的に配置できる可能性があります。

政府は2030年度までに、バスやタクシーなどの自動運転サービス車両を全国で1万台導入する目標を掲げています。堺市での取り組みは、この目標に向けた運行モデルの一つになります。

商用化までに残る3つの課題

2028年の商用化に向けては、技術、安全性、採算性を同時に確立する必要があります。

第一の課題は、複雑な道路環境への対応です。工事による車線変更、違法駐車、自転車の飛び出し、緊急車両の接近など、実際の道路では事前に設定しきれない状況が発生します。実証で収集したデータをAIへ反映し、対応できる場面を増やす必要があります。

第二の課題は、遠隔監視を含む安全な運行体制です。通信回線が途切れた場合にも車両が安全に停止できることや、監視拠点が複数台を適切に管理できることが求められます。事故や故障時に現場へ向かう要員の配置も必要です。

第三の課題は事業としての採算性です。車両に加え、AI計算基盤、通信、遠隔監視、保守整備には費用がかかります。当面はセーフティードライバーも同乗するため、商用化しただけで直ちに大幅な省人化が実現するわけではありません。運行台数を増やしながら、一人の担当者が安全に監視できる車両数や運用コストを検証することになります。

KDDIとnewmoの資本業務提携は、自動運転の研究開発から、料金を受け取って利用者を運ぶ商用サービスへ進むための体制づくりです。2027年度のレベル4認可、2028年の限定エリアでの商用運行、さらに全国展開という工程が予定通り進むかが今後の焦点になります。