厚生労働省は10月23日、2023年3月に卒業した新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況を公表しました。高卒は36.9%、大卒は31.2%で、それぞれ前年度より1.0ポイント、2.6ポイント低下しました。26日朝の就職・採用を考えるうえでは、離職率の低下と個々の職場の働きやすさを分けて読むことが重要です。
今回の数字は、今春入社した人が半年で辞めた割合ではありません。2023年春に就職したと推定される人を対象に、2026年3月末までの離職を捉えたものです。公表が10月でも、集計している期間にはずれがあります。現在の若者全体の気持ちや、足元の採用市場を直接示す数字として読むことはできません。
厚生労働省は、雇用保険の届出情報を使い、新規学卒者と推定される就職者と離職者を算出しています。離職理由や離職した後の就業状態を問わず、最初に届け出た事業所を離れた場合を集計する考え方です。転職して別の仕事を続けている人も含まれるため、離職者をそのまま失業者と呼ぶことはできません。
率の低下だけで、すべてが改善したとは言えません
大卒の31.2%という数字は、対象となる就職者に占める割合です。前年との差を表す2.6ポイントと、割合そのものの変化率は異なるものです。「2.6%減」という表現で両者を混ぜると、比較の意味が変わってしまいます。数字を読み比べるときには、単位と対象をそろえることが必要です。
離職率が下がる理由は一つとは限りません。仕事との適合、待遇、転職先の状況、本人の生活事情など、さまざまな要因が関わります。今回の統計だけから、企業の研修が全国的に成功した、若者の忍耐力が変わった、といった原因を断定することはできません。変化を説明するには、別の調査や現場の情報が必要です。
率が低いことを目標にする場合も、望ましくない状態で働き続けている人がいないかを見る必要があります。退職が少ないことと、健康や成長が守られていることは同義ではありません。逆に、本人が希望する仕事へ移る離職まで一律に失敗と扱えば、必要な職業選択を見えにくくしてしまいます。
家族や学校が数字を伝える際は、離職した人を責める材料にしないことが大切です。統計は集団の傾向を把握するためのもので、個人が辞めるべきか残るべきかの答えではありません。本人の仕事内容、生活費、心身の状態を確認したうえで、必要な相談先につなげる方が役立ちます。
規模と産業の違いは、質問を作る材料です
公表資料では、事業所規模や産業による差も示されています。大卒では、5人未満の事業所の3年以内離職率が58.2%、1000人以上では24.2%でした。ただし、事業所の規模区分による集計を、そのまま個々の企業の優劣に置き換えることはできません。仕事内容や雇用の構成が異なる可能性があります。
小さな職場は担当範囲が広く、大きな職場は役割が細かいといった印象だけで選ぶことも避けたいところです。実際には会社や部署によって違います。応募先では、入社直後に何を任されるか、誰が教えるか、困ったときに誰へ相談するかを具体的に聞く方が、自分との相性を考える手掛かりになります。
産業別の比較も同様です。高い率が示された産業であっても、その中のすべての職場が同じ働き方とは限りません。シフト、勤務地、繁忙期、客との接し方などを確認し、希望する生活と両立できるかを考えます。統計は応募先を一律に除外するための順位表ではなく、確認を深める入口として使うことができます。
新卒で働き始める人には、初めて経験する条件が多くあります。「忙しい職場」という抽象的な説明より、通常の一日の流れや繁忙期の勤務例を聞く方が理解しやすくなります。採用担当者の説明に加え、配属先で働く人と話す機会があるかも、情報を具体化するための確認点です。
学生は雇用条件と生活費を並べます
給与を見る際には、月額の見出しだけで判断せず、基本給と手当、変動する部分を分けます。家賃や通勤費、食費など、毎月必要な支出も併せて考えると、初任給の数字だけでは分からない生活の見通しが立ちます。支払われる条件が不明な手当を、必ず受け取れる収入として家計に組み込まないことも重要です。
勤務地の変更や転居があり得る場合は、住まいをどう確保するかが就職後の負担に関わります。転居費用の扱い、通勤できる範囲、家族の事情を伝える時期など、応募中に確認できることがあります。仕事の魅力と生活の条件を別々に整理しておけば、入社後に初めて分かる食い違いを減らす助けになります。
研修期間と、その後の仕事の違いにも目を向けます。研修中は同期と一緒でも、配属後は一人で担当する場合があり、相談しやすさが変わる可能性があります。何カ月教えるかだけでなく、配属後も質問できる仕組みがあるか、評価をいつ受けるかまで確認すると、入社後の姿を考えやすくなります。
内定後に疑問が出たときは、確認した内容を記録に残すことも有用です。口頭の説明だけでは、後から条件を照合しにくくなります。すぐに退職するかどうかを決めるためではなく、認識の違いが生じた際に、どの説明を基に選択したのかを落ち着いて確認するための準備です。
企業は退職者数の先にある業務を見ます
採用側にとって、離職率の低下は定着への取組を検証するきっかけになります。ただし、全国の数字が改善したことだけで、自社の課題が解決したとは言えません。部署や入社時期、職種ごとに、どの場面で困り事が起きたかを把握する必要があります。人数が少ない職場では、率だけでは変動が大きく見える点にも注意が必要です。
退職理由の聞き取りも、形式的な分類だけでは実態を捉えにくい場合があります。本人が最後に伝えた理由の背後に、業務量や相談のしづらさが重なっている可能性があるためです。本人のプライバシーを守りながら、仕事の割り当てや教育の方法として改善できる部分を探す姿勢が求められます。
新人を教える人の負担も見逃せません。通常業務に加えて教育を担当するだけでは、質問に応じる時間を確保しにくくなります。指導役を決めることと、指導に使う時間を用意することは別の作業です。採用人数を増やす前に、受け入れ側の業務と支援の体制が見合っているかを確かめる必要があります。
定着策を評価する際には、研修への参加人数だけでなく、その後に仕事を進められるようになったかも考えます。説明を受けたことと、実際に一人で判断できることには差があります。質問をした回数を減らすことより、分からないまま作業を進めない環境を整える方が、現場の安全と仕事の質につながります。
職場内で相談を受ける人には、退職を止めることだけを目的にしない対応も求められます。仕事の変更で解決できる問題なのか、勤務時間や休息の確保が必要なのかを整理しなければ、同じ困り事が残るからです。本人が話した内容を誰まで共有するかを確認し、相談したことで不利益を受ける不安を減らすことも、実際に相談できる環境を作る一部になります。
離職後の支援も、統計と同時に読みます
厚生労働省は、新卒応援ハローワークなどで職場定着や離職者への就職支援を続けるとしています。相談の対象や利用方法は窓口の案内で確認する必要がありますが、最初の就職先を離れたことで、次の選択肢がなくなるという話ではありません。学校の相談室など利用できる窓口も含め、状況に応じて確認できます。
転職を考える人は、今の仕事で困っていることと、次の職場に求めることを分けて書き出すと、相談を進めやすくなります。仕事内容への不満と、勤務時間や通勤の問題では、必要な対策が違うからです。勢いで条件を広げ過ぎず、譲れない生活上の条件を確認することが、次の選択の具体化につながります。
家計では、働き方が変わる間の支払い予定を確認することが重要です。収入が入る時期と家賃などの支払日がずれる場合があるためです。ただし、給付の受給資格や支給額は個別の状況に左右されます。統計の記事を根拠に受け取れる金額を決めつけず、正式な窓口で自分の条件を確かめる必要があります。
次の確認は内訳と、異なる世代の比較です
今後の追加資料や次回の公表では、学歴別だけでなく、規模別・産業別で変化が続くかを確認します。異なる卒業年の比較には、その時期の雇用環境や対象の構成が関わります。一年分の改善を将来の低下傾向として断定せず、複数年の推移と現場の条件を併せて見ることが必要です。
今回の公表からは、離職した全員の転職先、収入の変化、満足度までは分かりません。離職をどう評価するかには、こうした情報も関係します。写真は職場での打ち合わせのイメージで、集計対象者や特定の企業の定着状況を示したものではありません。
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和5年3月卒業者)を公表します」 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00011.html /「集計の考え方」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137940.html
まとめ
2023年春卒の3年以内離職率は高卒36.9%、大卒31.2%に下がりましたが、失業率や個人の適性を示す数字ではありません。就職する側も採用する側も、条件の確認と入社後の支援に結び付けて読むことが大切です。
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